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2025/6/23

研究か、就活か ── 揺れる理系院生のキャリアと、AI活用で人事ができること 

      今回のブログでは、こちらの記事『難題だらけ 理系院生の就活 推薦は利用減、超早期化で研究に時間割けず』(日本経済新聞)を起点に、理系大学院生のキャリア形成における課題と、人事がAIを活用して果たせる役割について考えていきます。

      まず、この記事で印象的だったのは、以下のような現実です。

      学業と就活の両立が困難なまま、推薦枠は減り、就活は早期化。研究に集中するほどキャリアに不安を抱える。

      博士進学のモチベーションも見えにくく、日本の博士号取得者数は主要国の半分以下。企業との接点も乏しい。

      産業競争力や技術開発の未来を担うはずの高度専門人材が、日本の新卒採用が抱える制度や慣習のはざまで迷っているのが、いまの日本の現状です。

      「推薦に頼れず、大学院に進学直後に就活開始」── 就活のスピードアップに理系学生も企業も追いついていない

      これまで理系の就職活動は、大学や指導教員による推薦によって就職先の企業とつながる方法が主流でした。しかし今は、マイナビ調査によると「理系のわずか17%」という数字にまで減少しています。修士1年目の夏にインターン選考がはじまり、秋には本選考に進まないとならない状況です。

      この環境では、研究計画とキャリア設計が両立しません。学会発表に集中するため、インターン参加を見送った学生の例が記事の中には登場しました。研究を優先する学生の中では「就活で出遅れてしまうのでは」と不安を抱く声も少なくありません。

      企業側も「うちだけ選考時期を遅らせても、他社に優秀な学生を取られてしまう」という事情があり、結果として早期化競争が続きます。学生にも企業にも「納得感のあるマッチング体験や出会いの機会」が不足していることが見えてきます。こうした採用制度がもたらす悪循環を改善することが採用・人事の機会につながると感じ、AIを活用して理系学生の採用に取り組む企業・団体の事例を調べました。

      AIを活用した理系学生採用の事例:3つの「研究ベース採用」の取り組み

      研究概要×業務スキルマップのマッチング自動化【ユニリーバ】

      学生が提出した研究要旨や論文概要を、企業のジョブディスクリプションと照らし合わせ、AIが自然言語処理で「応用可能性」や「近似業務領域」を抽出し、「研究経験ベースのスキル可視化」を行います。

      日用品・化粧品のグローバルメーカーである「ユニリーバ」は、年間25万件以上の応募書類をAIを活用して対応します。応募者の研究や経験を自然言語処理で分析し、ジョブディスクリプションとの適合度を自動評価しています。このAI活用によって、選考期間を4ヶ月から4週間に短縮し、選考にかけるマンパワーを50,000時間も削減しています。

      選考労力の削減のみでなく、学術的な専門性も「業務への応用可能スキル」として可視化されることで、例えば「画像処理に関する研究」→「品質検査・製品評価部門」などへの適正を示すことが可能になります。理系学生の研究テーマを広く、そして早く自社業務とマッチングすることで、短い就活期間でも納得できる出会いの機会を作っています。

      参考情報:AIで採用を革新したユニリーバ〜180万件の応募をリードタイム4週間でさばくには

      OB・OGデータ構造化と推薦機能【マルチバース】

      同様の研究テーマや専門領域を持つ先輩社員のキャリアパスを構造化し、「このテーマで研究していた人が、いまこの部門で活躍している」という推薦をAIが提示。学生の「未来像の見えにくさ」を補います。

      英国の業務訓練企業「マルチバース」は、AIを活用したリコメンドエンジン「サーチライト」を買収し、学生研究内容と同様の専門を持つ先輩たちのキャリアを構造化し、「あなたと同じテーマで博士研究をしていた先輩は、現在この部門で働いています」という形で学生に提示しています。

      自分と同じ研究に取り組んだ先輩のキャリアパスやロールモデルを提示することは、安心して研究に取り組める土台になると思います。加えて、取り組んだ研究ベースでこの先の自分のキャリア像をイメージでき、企業との出会いのきっかけにもつながります。

      参考情報:Euan Blair’s Multiverse recruits firm’s AI to pick candidates

      プレ・アセスメントと研究プレゼンの組み合わせ【TNG】

      スウェーデンの採用会社TNGは、ロボット面接官「Tengai」を使った構造化面接を導入しています。企業が定義した評価項目に基づき、公平かつ人間らしい対話を通じて学生のプレゼン能力や論理構成力を可視化します。AIが話し方や特徴、論理展開を定量評価して記録・分析を行うことで、理系学生が「言語化が苦手でも研究内容を正当に評価される機会」を担保し、研究ベースでのマッチングに寄与します。

      参考情報:Wikipedia「Furhat」

      これらの企業・取り組みはすべて、「研究内容と企業の業務内容を結びつける」という目的をAIを使って再設計している点が共通しています。従来の採用評価では拾えない、研究型人材の本質的な能力を発掘できる仕組みといえるではないでしょうか。

      「研究と仕事が切り離されない採用」に向けて

      学生にとって研究とは、自分自身の知的関心を形にするプロセスであり、その成果を否定されたり、就職活動で軽んじられたりすれば、自信そのものを揺さぶられかねません。人事が取り組むべきは、「すぐ使えるスキル」だけを見る短期的な採用から、「研究が事業と接続する可能性」を見出す長期視点の採用へと、視座を転換することです。

      • 研究テーマを公平にジョブスキル判断につなげる

      • 近しい研究に取り組んだ先輩たちを示してキャリアイメージを可視化する

      • プレゼン能力に依存しない研究内容の正当な評価

      前述の事例を参考にして、AIの力を使えばこれまで「見えにくかったもの」が、見えるようになります。研究内容からスキルを抽出し、先輩のキャリアを参考にし、選考でのプレゼンも支援する。それは、「研究の意味を社会につなぐ」という試みでもあります。採用・人事を高度人材育成や生産性向上につなげるための取り組みとなると考えています。

      この記事を書いた人

      #AI活用人事 舟久保(ふなくぼ)

      総合マーケティング会社で23年間、NBメーカーの商品開発・販促企画のアイディア創出のための調査から、クチコミマーケティングの企画・施策実行までの支援を行う。新しいモノが買われなくなるレコノミーの時代の到来を実感し、フィードフォースに加入。ID統合とCDPを活用した人間中心のマーケティングのためのSDL構築と、生活者と企業の新しい生態系「IDeconomics」の実現を目指す。加えて、人事・採用のリスキリングにも挑戦中。

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