
新卒採用において「入社後のミスマッチをどう防ぐか」は、人事にとって大切で重たいテーマだと思います。丁寧に選考を重ねても、「働いてみたら想像と違った」「企業文化に馴染めなかった」といった理由で、せっかく採用した若手社員が数年以内に離職してしまうケースは必ず発生します。今の新卒採用の対象となるZ世代は『共感』や『意味のある仕事』を重視する傾向が強く、職務内容や職場の雰囲気といった『肌感覚的な相性』が合わなければ、早期に見切りをつける傾向があると言われています(十把一絡げにしてはいけませんが)。
こうした背景のもと、企業と学生が『お互いに見極める』ための手段として注目されているのが「長期インターン」です。日本経済新聞の記事『〈就活・採用最前線〉長期インターンに学生注目』によると、長期インターンに参加する学生は2025年に前年から5割近く増加しており、数ヶ月単位で実務を体験できる環境が求められていることがわかります。学生はインターンを通じて「自分に合った仕事」を見極め、企業は「カルチャーにフィットするかどうか」を現場レベルで確認できる。お互いに『試してから選ぶ』採用のあり方が、いま着実に広がり始めています。
このような「相性採用」を、さらに制度的・技術的に支える鍵がAIの活用です。人事や現場が主観的に判断していた部分を、AIが定量的に補完し、再現性のある評価や予測につなげることができます。以下では、長期インターンを通じた採用の質を高めるために、人事がAIをどう活用できるかを具体的に考えてみたいと思います。
長期インターンの評価データをAIでスコア化し、マッチングに活用する
学生が長期インターンを通じてどんな行動を取り、どんな成果を出したか。その情報を「感覚」で判断するのではなく、定量的に把握し、人事の意思決定に活かすことが求められています。実際にSlackでの発言ログ、Notionでのレポート、社員とのフィードバック面談といった非構造的なデータは、AIにとっては「学びに活かせる宝の山」です。たとえば、『Humantic AI』を使えば、学生の文章ややりとりからパーソナリティ傾向を導き出し、職種やチームとの適合度を可視化することができます。
加えて『Spoke.ai』のようなAI要約ツールを組み合わせることで、学生が提出した日報や業務報告の内容を瞬時に整理し、「どんな強みを発揮していたか」「どんな成長が見られたか」を見える形にして蓄積できます。これによって、選考の過程でも「この学生は○○のプロジェクトで△△の成果を出している」といった具体的なエピソードをもとに、配属先や職種を検討することが可能になります。こうした分析結果は、現場社員の主観とは異なる観点を提供し、より客観的で納得感のある採用判断を支えることができます。
Humantic AI
Humantic AIは本来、営業担当者が顧客の性格やコミュニケーションスタイルを把握し、アプローチを最適化するための「バイヤーインテリジェンス」ツールとして開発されています。自然言語処理によって、メールやSNS投稿からDISC分析やOCEAN特性(ビッグファイブ)を推定し、対人コミュニケーションの精度を高める支援を行います。
一方で、近年ではこの技術を応用して、採用や人材評価の場面でも活用されるようになってきています。候補者の文章やオンラインでのやりとりからパーソナリティ傾向を推測し、チームとの相性やカルチャーフィットを予測する機能は、特に長期インターン中の学生評価において、主観に偏らない参考情報として活用可能です。人事部門にとっては「この学生はどのような働き方を好むか」「どのような環境で力を発揮しやすいか」といった『ソフトな適性』を把握する手段として、一つの選択肢になるツールです。
Spoke.ai
Slackに蓄積された情報をAIが自動要約・整理。日報やプロジェクトログから「誰が何をやったか」「どの業務で成果を出したか」を明文化し、長期インターンにおける学習・評価プロセスをスムーズにします。
学生と社員の相互理解をAIチャットで支援し、“相性”を深掘りする
せっかく長期インターンで実務経験を積んでも、学生が「本当にやりたいこと」に気づいていなかったり、企業側が「どんな人材を求めていたか」を言語化できていなければ、ミスマッチは起こります。そこで重要になるのが、相互理解の質を高めるプロセスです。『Paradox.ai』のようなAIチャットボットを活用すれば、インターン前の段階で学生の志望動機や価値観、キャリアビジョンを自然な会話の中で引き出すことができます。人間相手では話しづらいことも、AIチャットなら素直に話せるという学生も少なくありません。
また、インターン期間中には『Spoke.ai』のようなAIサマリー生成ツールを使って、学生と社員のコミュニケーション履歴を整理し、どんな話題が多かったか、どこで意見のすれ違いがあったかを可視化することが可能です。SlackやNotion上でのやりとりをAIが客観的に読み取り、「このプロジェクトでは意図のすり合わせに課題があった」「この業務領域では相互の理解が進んでいた」といったインサイトを提供してくれます。こうした支援があることで、学生と企業の双方が「相性」について冷静に振り返ることができるようになります。
Paradox.ai
AIチャットボット「Olivia」がエントリー対応を代行。応募者に対して自然な会話形式でヒアリングを行い、希望職種や価値観、スキルなどを整理。選考前の『対話型レジュメ』として、採用精度の向上を支援する。
ブラック化の兆候をAIで検知し、健全な受け入れ体制を保つ
長期インターンの広がりとともに、「労働時間が長すぎる」「ノルマが過剰に課せられている」「十分な指導がなされない」といった『インターンのブラック化』の問題も注目されるようになってきました。これは採用ブランドを損なうだけでなく、学生のキャリアそのものにも悪影響を及ぼしかねません。こうした事態に備えるには、学生のエンゲージメントや心理的状態を継続的に把握し、早期に異常を察知することが重要です。
たとえば『Culture Amp』はAIによる従業員エンゲージメント分析や離職リスクの予測を通じて、離脱兆候を可視化する「Retention Insights」機能を備えています。これにより、学生のモチベーション低下やストレス傾向を早期に察知し、適切なフォローを行う指標として活用できます。
また、『15Five』のようなツールでは、週次の簡易パルスサーベイやeNPS測定を通じて、細やかにインターン生の感情や関心度の変化を追跡することが可能です。AIがエンゲージメントドライバーやリスク傾向を分析してくれるため、人事は早期に兆候を把握し、柔軟に受け入れ体制を整えることができます。こうして「兆候が現れたときに迅速に気づく」仕組みを構築することこそ、企業の信頼を守る上でも不可欠です。人事がAIと共にこの体制を整えることで、ブラックな状況を未然に防ぎ、健全なインターン環境を維持できるようになります。
Culture Amp
従業員エンゲージメントや組織のメンタルヘルス・離職リスクをAIで予測・可視化できるプラットフォームです。Retention Insightsによって、早期の離職兆候などを掴めます。
15Five
週次のパルスサーベイやeNPS測定機能に加え、AIによるエンゲージメントドライバーや離職リスクの予測機能を備えた、継続的なコミュニケーション支援型プラットフォームです。
AIと人事の共創で、納得感ある採用を実現する
「選考のための面接」から「相性を確認する就業体験」へと、新卒採用のあり方は確実に変わりつつあります。長期インターンはその中心にある施策であり、今後さらに多くの企業が導入する流れは加速していくでしょう。ただし、導入するだけではミスマッチを防ぎきれません。重要なのはその経験をどう『見える化』し、どう『判断材料』にするかです。そこにAIが果たす役割は、ますます大きくなっていくはずです。
この記事を書いた人

#AI活用人事 舟久保(ふなくぼ)
総合マーケティング会社で23年間、NBメーカーの商品開発・販促企画のアイディア創出のための調査から、クチコミマーケティングの企画・施策実行までの支援を行う。新しいモノが買われなくなるレコノミーの時代の到来を実感し、フィードフォースに加入。ID統合とCDPを活用した人間中心のマーケティングのためのSDL構築と、生活者と企業の新しい生態系「IDeconomics」の実現を目指す。加えて、人事・採用のリスキリングにも挑戦中。












