
人手不足が続く日本経済。その背景には、単に「働く人の数が減っている」だけではなく、「働く時間そのもの」が縮小しているという、見落とされがちな構造変化があります。
就業者数は1990年を100とすると2024年には109と微増しているものの、労働時間を加味した「マンアワー」は86と14%も減少しています(参考:総務省統計局「労働力調査」)。働く人は増えていても、総労働量は減っているのが本当の実態です。
この「見えにくい減少」が、企業の業績や経済成長にじわじわと影響を及ぼしています。人事の役割は、この「働く時間量の減少」への対応にも及んでいます。
現場の縮小や停滞が経済成長を妨げている
たとえば、宿泊業界では清掃スタッフの人手不足によって稼働率を客室稼働率を下げざるを得ない状況が出ていたり、建設業界では、作業員の確保ができず着工を延期する現場も増えています。(参考:日経新聞「縮む建設業、工事さばけず」)
一見すると大きなニュースにはなりにくいこれらの事象。しかし実際には、こうした「小さな停滞」の積み重ねこそが、地域経済や日本全体の成長力をじわじわと損ねています。人手が足りないから、できる仕事を減らる。そんな経営判断が、業種を問わず広がっている今、事業の持続可能性と「人の動かし方」を担う人事の責任は、重くなっています。
労働力の過不足を構造的にとらえ直す必要がある
人手不足を語るとき、往々にして「採用強化」「外国人材活用」といった直接的な手段に意識が向きます。しかし、日本における人手不足の本質はもう少し深いところにあります。
厚生労働省の統計(一般職業紹介状況)によると、建設、医療・介護、飲食業など現場を担う職種では深刻な人手不足が続く一方で、事務職や一部のホワイトカラー職種では人材の過剰が見られます。日本の労働力問題は「全体として不足している」のではなく、「過不足のバランスが崩れている」状態。必要なのは「再配置の設計」であり、この対策を担うのは人事部門なのです。
人事がAIを活用してできる3つの取り組み
このような課題に対して、AIを活用した人事はどのような貢献ができるのでしょうか。ここでは「労働移動」「時間活用」「多様性対応」の3つの柱で考えてみます。
1. AIによるスキル再構成と「職種の越境」
たとえば、製造業で工程管理に従事してきた人が、介護施設のオペレーションマネジメントに転職する可能性を考えてみましょう。このような「越境転職」は、従来の履歴書ベースのマッチングでは見落とされがちです。
AIは、職務記述書(ジョブディスクリプション)と個人スキルを自然言語で解析し、「共通スキル」「応用可能スキル」を抽出することができます。加えて、学習コストや適応時間もシミュレーションできるため、本人も企業も納得感を持って新たなキャリアを描けます。
このような仕組みは、たとえば「Eight Career Design」や「ReziMatch」など、国内外で登場しているスキル可視化系サービスにも応用されています。
2. 労働時間の見える化と最適化
短時間勤務や副業を選ぶ人が増える中で、人事にとっての大きな課題は「成果やコンディションの評価」です。正社員中心の一律な労働時間制度では、柔軟な働き方を阻害する可能性があります。このような環境で活用を検討したいのが、AIによる「貢献の見える化」です。
SlackやTeamsでの発言量、チーム内での依頼対応回数
タスク管理ツール上での進捗速度や集中時間
社内アンケートやコンディションチェックの傾向変化
これらを総合的に捉えることで、「働く時間が少ない=貢献が少ない」といった偏見を避け、より多様な評価軸を導入することができます。また、業務日報をAIが解析し、業務の非効率や過重労働の兆候を検出することで、「休ませ方」や「任せ方」にも活用できます。
3. 潜在労働力の「活躍設計」
特に注目すべきは、シニア人材と外国人材の活用です。
高齢人材への適職レコメンド
退職後も働く意欲を持つ高齢者は少なくありません。しかし、適職が見つからなかったり、体力や通勤の制約で就業に至らなかったりするケースが多いのが現状です。AIは、過去の経歴や職務能力をもとに、「週3勤務のリーダー職」や「OJTメンター」「遠隔業務による管理系業務」など、高齢者の生活・健康に応じたポジション設計を支援できます。
外国人人材との共生設計
一方、外国人労働者についても、「多言語の壁」や「文化的摩擦」を越えるためにAIは役立ちます。
自動翻訳ツールによる業務マニュアルの整備
バックオフィス業務における対話AIの導入
社内SNSでのカルチャーフィードバックの抽出と対応策の提案
など、AIは「情報の共有」「認識のすり合わせ」のサポート役として非常に有効です。
AIを導入した企業が再配置や支援に成功している
実際に、AIを人事に取り入れて「働く構造の変革」に挑戦する企業も出てきています。
資生堂ではクアルトリクスの従業員エクスペリエンスツールを導入し、エンゲージメント調査を定期的に実施しています。部署別の課題を可視化し、改善アクションをトラッキングしています。(参考:クアルトリクス「資生堂の導入事例紹介ページ」)
また、ユニリーバでは、社内公募制度と連動したAIベースの「タレントマーケットプレイス」をGloat社の技術を使って導入し、従業員がスキルや関心に基づいて社内のプロジェクトやポジションに応募できる仕組みを整備しています(参考:Gloat「ユニリーバの事例紹介ページ」)。
このように、AIは「適材適所」の再設計を支えるインフラとして活用が進んでいます。
人事が企業の未来を設計する視点が求められている
人手不足と労働時間の低下の二重苦が続く今、人事が果たすべき役割は「単なる管理」から「持続可能な組織の設計者」へと進化する必要があります。
社内に存在するスキルやポテンシャルをどう可視化するか
高齢者や子育て世代がどのように働き続けられる環境をつくるか
外国人材が「働くだけでなく暮らす」地域づくりにどう関われるか
そして、こうした問いに答える手段として、AIは強力な支援ツールになります。労働供給が減ることは止められません。しかし、人事が「人の可能性を広げる」存在であれば、減少の影響を最小限に抑えることができそうです。
AIを活用すれば、人手不足という構造課題に、具体的な行動の形でアプローチすることができると考えています。
この記事を書いた人

#AI活用人事 舟久保(ふなくぼ)
総合マーケティング会社で23年間、NBメーカーの商品開発・販促企画のアイディア創出のための調査から、クチコミマーケティングの企画・施策実行までの支援を行う。新しいモノが買われなくなるレコノミーの時代の到来を実感し、フィードフォースに加入。ID統合とCDPを活用した人間中心のマーケティングのためのSDL構築と、生活者と企業の新しい生態系「IDeconomics」の実現を目指す。加えて、人事・採用のリスキリングにも挑戦中。












