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2025/8/6

最低賃金は上がり続ける。人事はどう“持続可能な賃上げ”を設計するか?── AIが支える報酬設計の新常識

      最低賃金の引き上げが全国規模で続き、企業の対応が急務になっている

      2025年度の最低賃金の目安が決定しました。厚生労働省の中央最低賃金審議会が示した加重平均は時給1,118円。現行の1,055円から63円アップという、過去最大の引き上げ幅です。これにより、全都道府県で時給1,000円を超える見通しとなり、最低賃金の「全国均一化」が現実味を帯びてきました。

      この動きが「働く人にとって良いニュース」であることは間違いありません。しかし、その一方で、多くの中小企業やサービス業では「限界が近い」という声も上がりはじめています。

      政府は、2020年代中に「全国平均1,500円」という最低賃金の目標を掲げています。これは、2025年時点の平均である1,118円から382円の引き上げを意味し、年平均で7.3%の成長が必要になります。

      日本商工会議所の調査では、「賃上げに備えるために設備投資以外のコスト削減を検討している」と答えた中小企業が約4割にのぼり、「残業時間の削減」や「シフトの見直し」など、企業や事業が「縮小均衡」におちいる兆しも見えはじめています。

      参考:最低賃金の目安1118円(日本経済新聞)中小、生産性向上が急務(日本経済新聞)

      賃上げを持続させるには原資の確保と従業員の納得感を両立する必要がある

      持続可能な賃上げには、原資の確保と従業員の納得感を持続可能な形で維持し続けることが必要です。

      原資の確保

      • 業務の生産性向上(属人性の排除、AI活用、業務フロー改善)

      • 価格転嫁の交渉力強化(取引先との関係性構築)

      • 業務効率化による間接コスト削減

      従業員の納得感

      • 評価と報酬の透明性

      • スキルと成果に応じた賃金体系

      • 公平性ある報酬配分

      特に「従業員の納得感」は、エンゲージメントや定着率に直結します。どれほど給与を上げても、「評価基準が不透明」「上司によって判断がぶれる」といった声があれば、それは『満足されない賃上げ』になってしまいます。

      AIの導入によって報酬設計の精度と透明性が高まっている

      持続的な賃上げを実現してきた世界の先進国では、すでに従業員の納得感を維持するための「AIによる給与決定」の仕組みが実用段階に入っています。

      Payscale(米国)

      • 給与ベンチマークに特化したSaaS。

      • AIが業種・地域・職種別に最適な給与水準を算出。

      • 年収や昇給率に関して、88%の提案が人事に採用された実績あり。

      参考: Payscale オフィシャルサイト

      Korn Ferry(グローバル人材コンサルティング)

      • 世界70カ国以上で報酬・人材マネジメント支援を展開。

      • 2025年の調査で、25%の企業がAIを報酬判断に使用中、さらに40%が将来的に導入を検討。

      • 昇給・ボーナスにおける推奨値の提案や、内部不公平の是正にAIを活用。

      参考:Korn Ferryレポート

      CandorIQ(アメリカ)

      • 性別・年齢・役職ごとの賃金ギャップをAIが自動で解析。

      • 公平性やインクルージョン指標を可視化し、給与設計の偏りを修正。

      参考:CandorIQブログ

      これらのツールは「人事担当の意思決定を支援するAI」であり、最終判断は人間に委ねられています。しかし、人間の経験や感覚に委ねられていたこれまでの報酬設計と比較して、AIの視点を通すことが、従業員の納得感につながる透明性をもたらしています。

      AI活用には公平性と説明責任を担保するための工夫が欠かせない

      AIによる給与設計には多くのメリットがある一方で、注意すべきリスクもあります。たとえば、AIが過去のデータに基づいて給与を提案する際、そこに近年はギャップが解消傾向にある「男女格差」や「年齢による報酬バイアス」が含まれていた場合、結果としてそれを再生産してしまうリスクがあります。

      メリット

      • 市場相場と乖離しない賃金設定

      • 社内での公平性の担保

      • 昇給・ボーナス提案の工数削減

      • 説明責任が果たせるデータ根拠

      リスク

      • アルゴリズムに内在するバイアスの再生産

      • ブラックボックス化による説明困難

      • 従業員との信頼関係の毀損

      実際に海外調査では、AIチャットボットが女性に対して、男性よりも低い給与額を提案したという事例も報告されています。これは、過去のデータに含まれていた「社会的偏り」を学習した結果と考えられます。AIを導入する際には過去の事例と現在の傾向を理解する「人間の人事」も現時点では必要な視点です。

      参考:NY PostWorldatWork

      人事はAIを翻訳し、従業員に説明できる存在になる必要がある

      AIが給与を『提案する』時代において、人事に求められるのは「判断者」から「翻訳者」へのシフトです。

      • なぜこの社員にこの給与が適切なのか

      • どのようなスキルや成果が反映されたのか

      • 市場相場と照らしてどういう位置にいるのか

      これらを社員に説明し、納得を得ることこそが、人事の重要な仕事になっていきます。

      最低賃金の上昇はこれからも続いていきます。そして企業は、外圧ではなく内発的な賃上げを目指す必要があります。その状態を持続可能な形にするために、AIによる賃金設計の導入も大切な要素になってきます。

      ただし「AIが決めたから」と丸投げするのではなく、AIの力を借りながら、従業員の納得と持続可能性を両立する賃上げこそが、これからの時代に求められる姿です。賃金と経済の持続可能な成長は、「人とAIの対話」の中から、見えてくるのかもしれません。

      この記事を書いた人

      #AI活用人事 舟久保(ふなくぼ)

      総合マーケティング会社で23年間、NBメーカーの商品開発・販促企画のアイディア創出のための調査から、クチコミマーケティングの企画・施策実行までの支援を行う。新しいモノが買われなくなるレコノミーの時代の到来を実感し、フィードフォースに加入。ID統合とCDPを活用した人間中心のマーケティングのためのSDL構築と、生活者と企業の新しい生態系「IDeconomics」の実現を目指す。加えて、人事・採用のリスキリングにも挑戦中。