
「人事部の情報はブラックボックスである」── そんな固定観念がゆっくりと変わっていく、人事や採用の変化を実感する記事が目にとまりました。(参考:日本経済新聞「人的資本開示、3年目の課題 隠しごとのない人事」)
記事の中では、社員の離職率・エンゲージメント・制度の浸透度。これまで社内に伏せられてきた人事データを、むしろ積極的に「見せていく」人事部が紹介されています。エーザイや味の素といった企業の人事がアクションを起こしはじめています。自社の離職率やエンゲージメントの弱点までを含めて公開し、それを「働き方改革」や「従業員エンゲージメント」に変えていきます。「隠しごとのない人事部」は、従業員の信頼を得るだけでなく、組織全体をより良い方向に導く道標にもなりそうです。
こうした変化を後押しするように、世界にはデータのリアルタイム可視化や、従業員へのインサイト共有を通じて「透明性のある人事運営」を支援するAIサービスが登場しています。今回は、その中でも特に注目したい5つのサービスを、「従業員に開示すること」の価値とともに紹介します。
企業の透明性を高めるAI活用人事ツール5選
Leena AI【米国】 ― データを「すぐに見せる」ことが信頼になる

Leena AIは、従業員エンゲージメントの調査や社内制度のQ&A対応などを人事部のAIアシスタントとして代行します。それに加えて、アンケート結果やフィードバックをリアルタイムで可視化し、従業員にも即時に共有できる機能を持っていることが大きな特長です。
参考にしたい視点は、調査結果を「溜めない」ことです。従業員が入力した意見はすぐにみんなが見える形になり、チーム単位で結果を見比べることもできる。組織が今どうなっているかを従業員がタイムラグなく把握することができます。紹介した記事の中でエーザイの担当者が語ったように、「数字を開示すること」が組織や人を動かす原動力になるのであれば、Leena AIを活用し「組織全体が人事の目を持つ」仕組みを作ることができれば、組織が前進する力になると感じます。
参照元:Leena AI
Lattice【米国】 ― 同じ画面を見て「共通の目線」を持つ文化を創る

Latticeは、パフォーマンスマネジメントとエンゲージメントを一体で扱うツールです。特徴的なのは、従業員とマネージャーが「同じ画面」を見ながら1on1や評価面談を進められる点です。
目標設定やフィードバックの履歴、エンゲージメント調査のスコアなどがリアルタイムで共有されることで、「評価される側」だけでなく「評価する側」も、透明性のプレッシャーを受けます。その結果、フィードバックの質が上がるだけでなく、1on1に生まれるマンネリ感が抑えられ、「対話」が増えるといいます。これは、味の素が「20代のエンゲージメントの弱さ」を公表し、正面から向き合った姿勢とも重なります。課題を共有することが、次に取り組むべきアクションについて合意形成を図る最初の一歩になりそうです。
参照元:Lattice
Crunchr【オランダ】 ― 離職率も定着率も「全員で見る」指標に

Crunchrは、人事データの分析と可視化を極限までシンプルにしたサービスです。部門単位で離職率、年次別定着率、男女比、昇進率などを一目で確認できるダッシュボード機能にこだわっています。
シンプルなのでデータを読み解くことにストレスを感じることがないダッシュボードは、マネージャーだけでなく、従業員自身にも公開可能です。このダッシュボードによって「この部署は5年後の定着率が低い」といった実態が、従業員が「全員で見る指標」になります。記事の中ではエーザイが「3年・5年後の在籍率」を公開している事例が示されていましたが、見たくないデータこそ共有することで、それを変えていくアイデアが生まれていくのではないでしょうか。
参照元:Crunchr
Humanyze【米国】 ― 「どこで情報が止まっているか」を明らかにする

Humanyzeは、組織内の交流や会話の量・質を分析するツールです。「部署Aと部署Bの会話が極端に少ない」「チームCはリーダーとの対話が足りていない」といった分析結果を、リアルタイムで共有する機能を持っています。
このようなデータが見えることで、「うちの部門、やっぱり孤立してたんだな」と気づく従業員が出てきます。このような気づきが、組織改善のモチベーションを促します。人事が一方的に語るのではなく、従業員が「組織に対する気づき」を得る。この構造を作ることが、隠しごとのない人事部の価値でもあります。
参照元:Humanyze
Perceptyx【米国】 ― 「ナッジ」で行動変容を促す、Humuの技術を統合

従業員エンゲージメント調査の分野で高い評価を得ているPerceptyxは、2023年に行動科学をベースにしたナッジ型AI企業Humuを買収し、組織の「良い行動のための背中をひと押し」するプラットフォームへと進化しました。
従来のエンゲージメントサーベイやフィードバック分析は、「課題の発見」まではできても、それを現場で「行動に移す」までの課題がありました。このギャップを埋めるため、Humuのナッジテクノロジーを活用。分析から導かれた示唆を、従業員一人ひとりに合わせた「ちょっとした提案」として届けることができるようになっています。
たとえば、「最近このスタッフにフィードバックできていません」「次の1on1ではこういう質問をしてみましょう」といった、気づきに基づくアクションが個別に提案されます。その内容や実施状況は可視化され、必要に応じて従業員にも共有される設計になっていて、「振り返り」や「対話」が自然と生まれる環境が整います。
エーザイの事例にもあったように、「戦略は打ち出したが、現場には届いていなかった」という状況は多くの企業に共通する課題です。Perceptyxはそこに「良い行動のための背中をひと押しする」ためのナッジを組み込み、組織の透明化を具体的な行動に移すためのきっかけを提示しています。
参照元:Perceptyx
隠し事のない人事は、組織のための良い行動を自発的に促すきっかけとなる
人事のデータを開示することにはリスクを感じることもあります。見せすぎると混乱を生むのではないか、組織への批判も多くなるのではないか、そんな指摘が経営層か受けることもあるかもしれません。しかし、実際に先進企業が取り組んでいるのは「見せることで、むしろ組織が前向きに動きやすくなる」という選択です。
紹介したAI活用ツールを使い
「すぐに見せる」ことで、状況の変化にタイムリーに対応できる仕組みをつくる。
評価や調査のデータを「共通の目線で見る」ことで、上司と部下が同じ方向を向く。
離職率や定着率などの数字を「全員で見る」ことで、問題を他人事にせず、みんなで改善に向かえる空気が生まれる。
ナッジを通じて「言われたから動く」のではなく、「自分から行動を起こしたくなる」ようなきっかけを届ける。
このような視点と効果を考えて、「見えること」をゴールとせずに、「見えた先に行動が生まれること」にこだわって考えてみてはいかがでしょうか。そうすることで、情報を管理するアドミニストレーターから、良い行動を促すモチベーターへと人事の役割を広げることができるのではと思いました。
この記事を書いた人

#AI活用人事 舟久保(ふなくぼ)
総合マーケティング会社で23年間、NBメーカーの商品開発・販促企画のアイディア創出のための調査から、クチコミマーケティングの企画・施策実行までの支援を行う。新しいモノが買われなくなるレコノミーの時代の到来を実感し、フィードフォースに加入。ID統合とCDPを活用した人間中心のマーケティングのためのSDL構築と、生活者と企業の新しい生態系「IDeconomics」の実現を目指す。加えて、人事・採用のリスキリングにも挑戦中。












