
今回のブログではこちらの記事『従業員30万人 リスキリング 米ウォルマート、ECに軸足 AI時代に「脱単純労働」(日本経済新聞)』を起点に、AI時代の人材戦略とそのために必要となる人事の姿勢・行動について考えます。まず、この記事で印象的だったのが以下の2人の経営者が語った言葉です。
将来すべて自動化された現場で、何に投資すべきだろう。私たちは(従業員の)皆さんに投資し、成長し続けるのを見守りたい。(ダグ・マクミロン最高経営責任者)
手作業の荷詰めや簡単な機械操作はもう必要ない。新しくてより高度なスキルが求められるようになっている。(RJ・ザネス副社長)
ウォルマートは米国最大の雇用を生む会社であり、その多くの従業員が単純作業を担っています。AI導入による自動化と人手不足、求める仕事の不均衡が並行して進んでいます。こうした現場でAI導入が進むことで何が起きているのか、その環境で人事に求められる姿勢や行動は何なのか、考察していきます。
リスキリングは「雇用維持」の手段ではない。「自動化前提」で、従業員を見つめ直す。
ウォルマートは、全従業員の約15%にあたる30万人を毎年リスキリングすると発表しました。VR(仮想現実)を用いたフォークリフト訓練や、AIを活用した物流・顧客分析など、現場の変化は急速に進んでいます。注目すべきは、AI導入と人材育成をセットで推進している点です。自動化が進むほどに、人の手が空く。そこに再投資して、「新しい価値創出の担い手」に育てる ── この発想が、企業には必要になりつつあります。
またこのリスキリングの目的は、リストラの回避策ではありません。「これからのビジネスに必要な人材をどう育成するか」を戦略的に進めています。荷出しや在庫補充などの単純労働から、冷蔵設備や空調の管理といった技能職への転換が進んでいます。この流れは、AI時代の人事において「どんなスキルを、誰に、どう獲得させるか」を企業が設計していく必要があることを示しています。
「技術×人」の再設計と動機づけに、トップ・人事がコミットする。平等な機会を設計する。
AI導入の本質は「人の役割をどう変えるか」です。トップと人事がその再設計に関与しなければ、技術だけが先走り、現場との乖離を生むリスクが高まります。ウォルマートでは、トップ自らが従業員大会でリスキリングの意義を説明し、「自動化された未来でも、あなたを必要としている」と伝えています。このような「対話」の積み重ねが、変化への納得と行動のためには必要です。
AIやテクノロジーに対応できる人材と、そうでない人材のあいだに、格差が生まれることも懸念のひとつです。ウォルマートでは、技能職の時給が単純作業の約2倍というデータもあります。この格差を「努力の結果」として放置せず、学ぶ機会・キャリアの選択肢・動機づけの支援を設計することも、人事の役割になっていきます。
日本企業のリスキリングの現実と事例
ウォルマートのように、大規模にリスキリングを進める企業は、現状では日本でもまだ多数派ではありません。一方で、トヨタやKDDIなど、自社の未来を見据えて先行する動きも出始めています。
トヨタの取り組み:技能者にAI×ソフトウェアを掛け算
トヨタはグループ各社を横断する「トヨタソフトウェアアカデミー」を設置し、AIやデータセキュリティ、自動運転など、実践的な講座を100以上開講しています。現場の熟練技術者が、自動車制御の知識とプログラミングを掛けあわせるスキルを修得し、ライン管理や品質向上に応用する取り組みが進んでいます。
また、製造現場では、AIがリアルタイムデータを分析して意思決定を支援する環境が整備され、「問題解決の主体は人、支援役としてAIを使う」という姿勢が現場まで浸透してきています 。これにより、単純に「技能をAIに任せる」のではなく、「技能にテクノロジーを掛け算する」ことで、新たな価値創出への基盤を築いています。
参考:トヨタグループ5社、AI・ソフトウェアの人財育成とイノベーションを加速(トヨタ自動車)
KDDIの取り組み:「DX University」で1万人に基礎知識を提供
KDDIは2020年に社内人材育成機関「KDDI DX University」を設立し、2023年までに約1万人が基礎DX研修を修了。さらに、選抜された約800名が1年間・200時間のコア人財育成プログラムを受講しています。社員向けには、DXやAIを自ら学び、挑戦できる「ジョブ型人事制度」と連動したキャリア制度も整備されており、「指名されて育つ」のではなく、「自ら育つ」環境を意図的に設計しています 。
参考:求む!未来のDX人財 「KDDI DX University」を設立したKDDIのDXに懸ける本気度(KDDI)
この両社の事例から以下3点の共通施策が見えてきます。
現場人材に基礎と応用スキルの両方を提供する教育体系
AIやデータ活用を現場業務と接続し、即実践できる仕組みを整備
受け身ではなく、「自発性」を育む学習インフラと制度設計
これらの要素は、単に研修を提供するだけでなく、リスキリングを通じて「自律的に学び、技術と共に働く」人材像を描いている点で、ウォルマートの方針とも共鳴します。
従業員の「次の時代の働き方」を人事が構想する
冒頭でも書きましたが、AI導入による自動化と人手不足、求める仕事の不均衡が並行して進んでいます。誰もがリスキリングの必要性を感じつつも、なかなか一歩を踏み出すのが難しいこともわかります。このような環境で持っていたい視点は「その変化を、前向きに乗りこなす」ことではないでしょうか。
ウォルマートのリスキリングの事例が魅力的に映るのは、リスキリングが「雇用維持」のためではなく「次の時代の働き方」の提案になっているからだと感じます。「自律的に学び、技術と共に働く」を前向きに駆動させるためには、「次の時代の働き方」を構想し、示してあげることが前提となるのではないでしょうか。
この記事を書いた人

#AI活用人事 舟久保(ふなくぼ)
総合マーケティング会社で23年間、NBメーカーの商品開発・販促企画のアイディア創出のための調査から、クチコミマーケティングの企画・施策実行までの支援を行う。新しいモノが買われなくなるレコノミーの時代の到来を実感し、フィードフォースに加入。ID統合とCDPを活用した人間中心のマーケティングのためのSDL構築と、生活者と企業の新しい生態系「IDeconomics」の実現を目指す。加えて、人事・採用のリスキリングにも挑戦中。












