
今回のブログでは、こちらの記事「〈小さくても勝てる〉「社員一丸」なら若手やめず」(日本経済新聞)を起点に考えてみたいと思います。
社員の早期離職は企業規模を問わず大きな課題です。厚生労働省のデータによれば、2021年3月卒の新規学卒就職者の3年以内離職率は38.4%。大卒では34.9%、高卒では38.4%と高水準です。さらに企業規模別では、30〜99人規模の中小企業では大卒の42.4%が3年以内に離職しており、少子化が進む今、新卒採用・離職防止のハードルは年々上がっています。
しかし、その一方で若手が「辞めない」環境をつくり、離職率を驚くほど低く抑える企業も存在します。この記事では、具体的な現場の取り組みを紹介したうえで、こうした工夫をAI活用人事でどう支援できるかを考えてみます。
社員が「辞めない」と言える現場づくり
マニュアルと相互カバーで「安心」を生む【陽和(北九州)】
樹脂部品を開発する陽和は、1999年以降に新卒採用した29人のうち27人が現在も働いており、離職率はわずか6.9%です。きっかけは約20年前、生産ラインが一人の社員の欠勤で止まった経験でした。熟練者に業務が集中していた構造を見直し、業務ごとの手順書や作業動画を整備。「カンやコツ」をできる限り数値化し、社員同士が互いに仕事をカバーできる仕組みに変えました。
その結果、有給や育児休暇の取得率は90%超となり、安心して休める環境が、離職を防ぐ最初の一歩になりました。加えて、若手が困難にぶつかった際、先輩は「正解を教える」のではなく、「原因を考えさせる」指導を重視。自分で答えを導く経験が、成長実感とやりがいにつながっています。
リファラルと好待遇でミスマッチを防ぐ【エムシス(仙台)】
仙台市を地盤に飲食店を運営するエムシスは、社員からの紹介によるリファラル採用を軸にしています。2022年7月には初任給を27万円から30万円に引き上げ、待遇改善とセットで社員定着を図りました。
その結果、22年7月以降に入社した41人のうち退職者はわずか5人。飲食業は入社3年以内の離職率が高卒で65.1%と非常に高い業種ですが、瀧川真雄社長は「紹介時に社員が職場を丁寧に説明するのでミスマッチが起きにくい」と話します。採用コストを人材会社に頼らず、社員紹介によって抑えた分を給与原資に回す仕組みも、社員のモチベーション向上につながっています。
日常会話で本音を引き出す【共栄鍛工所(新潟)】
共栄鍛工所の斉藤栄太郎社長は、毎日時間やルートを変えて工場を回り、社員一人ひとりに声をかけます。決まった時間に訪れると社員が身構えてしまい、本音が聞けないからです。
「世間話をしながら話すことで、配属や業務改善のヒントが得られる」と斉藤社長は言います。社員は金髪もOK、音楽を聴きながら作業しても問題なし。「人として許されないこと以外は自由」という方針が信頼感を生み、21年度以降に入社した正社員24人のうち退職者は4人にとどまります。
AIができること ── 人間の「目」を補う仕組み
これらの事例に共通するのは、社員一人ひとりをよく見て、成長や安心感を与える姿勢です。しかし、社員数が増えるとすべてを人だけで把握するのは難しくなります。そこで、AIを活用して「兆候を見逃さない仕組み」をつくる動きが広がっています。
離職兆候を早期に検知する
AIは勤怠データ、アンケート回答、チャット履歴などから、社員の離職リスクをスコア化できます。特に入社1〜2年目は、小さな不満や孤立感が離職の引き金になりやすいため、早期に兆候を把握することが重要です。
たとえば、パルスサーベイ型AIは「最近仕事にやりがいを感じているか」「チーム内で相談しやすいか」など短い設問を月1回配信し、回答内容をAIが分析。人事や上司がフォローすべき社員をアラートで知らせます。
AI活用人事サービスの具体例
ここでは日本企業で導入が進むサービスを3つ紹介します。
パルスアイ(ジャンプスタートパートナーズ)

短時間アンケートを通じて離職兆候をAIが分析。7つの指標で組織状態を可視化し、危険度の高い部署や個人にフォローを促します。
参考:パルスアイ
HR On Board(エン・ジャパン)

入社1年以内の社員向けに毎月簡単なアンケートを自動送信し、回答傾向から離職リスクを予測。大成建設では導入後、20代の離職率が8%から3.5%に低下した実績があります。
参考:HR on Board
参考:エン・ジャパン プレスリリース
Res-Q(ドリームホップ)

月5問程度のアンケートと自由記述を生成AIが解析し、要フォロー社員に具体的な面談コメントを自動生成。アラートやレポート機能もあり、面談経験が浅い管理職を支援します。
参考:Res-Q
小さな変化の積み重ねが離職を防ぐ
若手が辞めない職場には共通点が見えてきました。それは、社員一人ひとりが「見てもらえている」と感じることです。陽和のように業務を共有化して休める安心をつくる、エムシスのように紹介時点でミスマッチを防ぐ、共栄鍛工所のように日常会話で本音を引き出す ── いずれも「小さな仕組み」を続けた結果です。
AIはこうした人間の努力を置き換えるものではありません。ただ、数十人、数百人規模になると「小さな異変」を見逃しやすいのも事実です。AIを活用すれば、兆候を早期に拾い上げ、適切なタイミングで声をかけることが可能になります。
まずは、自社の離職が特に目立つ層や部署を洗い出し、パルスAIやHR OnBoardのように小さく試せるサービスから始めてみるのが現実的でしょう。人が人を見る姿勢を維持しつつ、AIを“気づきの補助線”として活用する ── その積み重ねが、若手が辞めない職場づくりの近道です。
この記事を書いた人

#AI活用人事 舟久保(ふなくぼ)
総合マーケティング会社で23年間、NBメーカーの商品開発・販促企画のアイディア創出のための調査から、クチコミマーケティングの企画・施策実行までの支援を行う。新しいモノが買われなくなるレコノミーの時代の到来を実感し、フィードフォースに加入。ID統合とCDPを活用した人間中心のマーケティングのためのSDL構築と、生活者と企業の新しい生態系「IDeconomics」の実現を目指す。加えて、人事・採用のリスキリングにも挑戦中。












