ブログ

2025/7/4

日本の「マインドヘルス支援」不足と海外に学ぶヒント ── 求職・復職支援に活用できる海外AIサービスを紹介

      今回のブログでは、こちらの記事『メンタル疾患、復職にハードル 産業医と主治医で見解相違、従業員が訴訟も』(日本経済新聞)を起点に、心の不調からの職場復帰をめぐる課題と、それに対して人事がAIを活用して果たせる役割について考えていきます。

      記事で紹介されている事例のように、メンタル不調からの復職をめぐって、主治医と産業医の判断が食い違うケースは珍しくありません。企業側は職場復帰の可否を判断する責任を負い、時には裁判でその判断が問われることさえある時代です。主治医と産業医、それぞれの立場の違いによる「評価のずれ」があるとはいえ、従業員にとっては非常に重い問題です。復職の可否が雇用の継続に直結するからです。

      人手不足が進行する中、仕事に対するメンタルヘルスの問題も並行して拡大しています。人事が向き合う重たい課題のひとつではないでしょうか。日本より前に進んでいる海外の取り組み・サービスからヒントを得たいと思います。

      世界と比べて、日本の「マインドヘルス支援」はどれほど遅れているのか

      アクサが2024年に実施したメンタルヘルス調査(※参考記事)によれば、「職場にマインドヘルス支援体制がある」と回答した人の割合は、アメリカや中国、イギリスでは50〜60%に達している一方、日本はわずか20%台にとどまっています。

      この結果は、日本の職場におけるメンタルヘルス対応が、主要国の中で最も遅れていることを明確に示しています。こうした遅れが、主治医と産業医の見解の不一致や、復職判断の曖昧さに拍車をかけているとすれば、なおさら深刻です。

      海外では何が進んでいるのか?──「見解のすれ違い」を埋めるAI活用サービス

      海外ではどのような支援体制が整っているのでしょうか。とりわけ注目したいのは、AIやテクノロジーを活用して、主治医・産業医・企業人事・従業員本人の四者間にある情報ギャップや判断のばらつきを埋めようとする取り組みです。

      Deel Engage【米国】:復職ステップの可視化支援AI

      Deel Engageは、社員のオンボーディングやスキル開発などを支援するプラットフォームであり、休職者の復帰支援にも活用できます。たとえば、「復帰は午前勤務から」「週3からスタート」など、段階的な復帰プランをAIが提案でき、主治医や産業医との意見調整にも役立ちます。

      本人の状態や業務内容、職場の受け入れ体制を整理したうえで、現実的な復職のシナリオを共通言語で描けるのが大きな特徴です。復職だけでなく、その後の成長支援にもスムーズにつなげられる点も魅力です。

      参照元:Deel Engage 

      Aware【米国】:職場内コミュニケーションからリスク検知

      Awareは、社内チャット(SlackやTeamsなど)のやり取りをAIで分析して、社員のストレス状態を可視化するサービスです。ネガティブなワードが増えたり、返信が遅れがちになったりといった「行動の変化」をもとに、メンタル面のリスクを検知し、人事部やマネージャーに通知してくれます。

      特に注目されているのは、本人が「もう限界です」と言い出す前に、兆候を察知できる点。復職後の状態管理としても有効で、産業医の判断を補完する客観的な指標として活用できます。職場内の“声なきサイン”を拾い上げるこの仕組みは、早期対応や再休職の防止にもつながります。

      参照元:AWARE

      Woebot Health【米国】:AIチャットボットによる日常的なセルフケア

      Woebotは、AIと会話しながら心の状態をセルフチェックできるチャットボット型のメンタルケアツールです。ユーザーは1回数分のやり取りで、気分やストレスを言語化し、少しずつ自分の状態に気づいていけます。

      特徴的なのは、ただの「雑談AI」ではなく、認知行動療法(CBT)に基づいた設計である点。話すことで気持ちが軽くなるだけでなく、対話の内容が記録・分析され、主治医や産業医が本人の状態を客観的に把握する助けにもなります。復職の判断材料にもなるし、再発の兆候を早めにキャッチするツールとしても期待できます。「何かおかしいけど病院に行くほどでは…」というグレーゾーンのサポートにも最適です。

      参照元:Woebot Health

      複数の「ファクト」を「可視化」することからはじめよう

      海外の取り組みを見ると、共通して以下のような視点が浮かび上がります。

      • 「本人の主観」だけでもなく、「医師の主観」だけでもない

      • 第三者的・中立的に、状態を評価・可視化する仕組みを取り入れる

      • 情報共有を助けるAIやツールで、見解のズレを減らす

      日本でも、産業医の選任やストレスチェックの義務化など制度面の整備は進みつつあります。ただ、それだけでは復職判断の「すれ違い」は防げません。大切なのは、「共通の事実」にもとづいて話し合える仕組みをつくることです。

      複数の事実を収集すること、それらを可視化することは海外のツールに学んで少しずつ導入していくと良いかもしれません。事実に基づいたデータを確認しながら、組織としてのマインドヘルス支援体制を構築していくことができるはずです。

      マインドヘルス支援は、コストではなく“安全な復職”のための投資

      主治医と産業医、労務と人事、そして何より従業員本人──それぞれの立場が異なるなかで、信頼できる情報と中立的な支援ツールが必要です。AIやデータを活用して「見解の共通土台」を整えることで、誰かが不利になるのではなく、全員が納得できる復職プロセスを築くことができます。

      マインドヘルス支援がまだ不十分な日本だからこそ、海外の知見に学びつつ、小さく、確実に、一歩を踏み出していきましょう。

      この記事を書いた人

      #AI活用人事 舟久保(ふなくぼ)

      総合マーケティング会社で23年間、NBメーカーの商品開発・販促企画のアイディア創出のための調査から、クチコミマーケティングの企画・施策実行までの支援を行う。新しいモノが買われなくなるレコノミーの時代の到来を実感し、フィードフォースに加入。ID統合とCDPを活用した人間中心のマーケティングのためのSDL構築と、生活者と企業の新しい生態系「IDeconomics」の実現を目指す。加えて、人事・採用のリスキリングにも挑戦中。